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食事が犬のマイクロバイオームに与える影響

食事が犬のマイクロバイオームに与える影響
犬の消化管には複雑なバクテリア、細菌、ウィルスが混在しこれらが代謝、体調、免疫機能、アレルギーリスク、栄養素の吸収力、そしてまた多くの重要なホルモン反応に影響を与えます(1)。また研究により犬の食事と腸内、そこに生息する数多くの微生物の健康との間に有意な相関関係が存在していることが明らかになりつつありますが、果たしてこれは犬の餌を与える上ではどのような意味があるのでしょうか。
ペットオーナーとして、与えるペットフードを通じて、ペットのマイクロバイオームの形成における重要な役割を我々は担っています。犬は本来肉食性のスカベンジャー性質であり、何千年もの間動物性たんぱく質(肉や魚など)と少量の植物性植物由来の食事から進化していました(2)。犬が加工された食品、例えば、少量動物性たんぱく質と60%の炭水化物が含まれているドライフードを食するようになったのはここ150年ほどの間です(3)。穀物や豆類は犬の先祖のダイエットには含まれていませんでした(単純炭水化物やでんぷんは犬のダイエットには必要ありません)。しかしこのような成分が市販のドライフードには含まれており、これらの成分こそが犬に慢性的な全身炎症を引き起こし癌など様々な変性的な疾患を引き起こすと示されています(4)。
市販のペットフードと自然生食は栄養源や比率(特にたんぱく質と炭水化物)が大きく異なりこれらの違いが犬の腸内に生息する微生物の数と多様性を変化させてしまうことが明らかになっています(1)。従って犬に最適な消化管の健康とそれに伴う健康効果を得るためには犬に最も適して栄養豊富なダイエットを与えることが良い方法ではないでしょうか。
多くのペットオーナーは市販のドライフードの製造方法、品質、安全性に対し疑問が増えるにつれ生食ダイエットへの関心が高まっています。ほとんどのBARF食品は生肉、数種類の内臓、生肉付きの骨、そして少量の野菜と果物が含まれています。
生肉とドライフードの微生物の多様性の違い
いくつかの研究により生肉食ダイエットと加工されたドライフードが犬の腸内マイクロバイオームに与える影響の違いが検証されました。一つの研究では健康な犬を二つのグループに分け、片方は生食、もう片方は市販のドライフードを1年間与えました。生食を与えら
れたグループは30~50%のたんぱく質、11~50%総脂質の層脂肪分が算出され、一方でドライフードのグループは18~21%のたんぱく質、8~10%層脂肪、そして最大50%の炭水化物が含まれていました。量グループを比較した結果、腸内細菌の有意な差異が見られました。生食を与えられた全ての犬には市販のドライフードを与えられた犬よりも多様で豊富な微生物組成を持つことが判明しました(5)。
また別の研究では市販のドライフードを与えられたグループと70%生食を与えられたグループの腸内細菌を比較した結果、生食を与えられた犬は細菌類の良いバランスが見られ、健康な腸機能に良い変化をもたらす結果が判明されました(6)。
これらの結果は生食の利点を強調する数多くの他の研究結果などとも一致しています(7-9)。
細菌多様性の低下は様々な疾患(IBD、糖尿病、湿疹、セリアック病、肥満など)を持つ人々で繰り返し観察されており、犬では不安定な消化管、腸の炎症、そして免疫機能の低下と関連しています(10,11)。
微生物の減少と病気のリスクの関連性は種類豊富な腸内マイクロバイオームを促進する生食が健康な腸と免疫力を維持するためには大切な要素であり、犬の健康を促進する鍵であります。
餌を与える時の安全面
生食ダイエットが犬に多くの健康効果をもたらすことは確かですが市販のドッグフードに比べ、生食ダイエットを食べることで食中毒などのリスクがあるのでは、という懸念もあります。また生食を食べることで存在する微生物が大腸菌、カンピロバクター菌、サルモネラ菌、エルジニア菌などの感染体の広がりが飼い主や他の家族へと広がる可能性がることも懸念されています。これらのリスクが果たしてあるのか検証するため世界中のペットオーナーを対象とした研究が行われました。16475世帯のうちペットの生食から人への感染が見られたのはわずか0.2%、そして人間のサンプルから生食に含まれている同じ病原体が検出されたのはわずか0.02%でした。研究結果により生食経由の病原体が人間へ感染するリスクは低く、稀であることが結論付きました(13)。
また市販のペットフードを与えられた犬と比べ、生食を与えられた犬は排泄物に病原体が多く含まれていると考えられています。生肉を与えられた犬の排泄物にはより多くの病原性細菌が検出されていますが市販のドライフードを食べている犬の排泄物に含まれている病源体の数とはさほど差はありませんでした。生食ダイエットの排泄物に含まれていたカンピロバクター菌の人間への感染は見られず、排泄物からサルモネラ菌の検出はほぼ検証されませんでした(14)。
サルモネラ菌やその他のヒト病原性細菌そしていくつかの抗生物質耐性菌含み、ドライペットフードや加工おやつには頻繁に検出されています。一つの研究では市販ドライフードではサルモネラ菌は最長19か月も生存する報告もあります(15-19)。
更に、生食を与えていない犬からサルモネラ菌が発見されたケース、また生食ダイエットの犬からサルモネラ菌が検出されなかった実態もあります(20)。サルモネラ菌に加え、加熱処理されたペットフードにはさまざまな種類のマイコトキシンが検出されており、ペットにとって大きな健康リスクとなっています(21-23)。
胃酸分泌障害は数多くの病原性原体による感染リスクを高めることが繰り返し示されていますがpHが4未満のため胃液の強い殺菌作用により15分以内に胃に侵入した外因性細菌を死滅させることができます(24)。幸いなことに肉食動物の犬は胃の中で強い塩酸を作り出せるように進化しています。犬の胃酸のpHは1.5から2.3であり、食後また空腹時でも強いpHのため、生肉や骨そしてある程度の細菌を消化し健康を損なうことはないのです(25)。
生食ドッグフードを通して人間へ病源性細菌の感染リスクは低いものの、感染症リスクの高い人(小児、高齢者、免疫力低下の方)は生食やペットフードを扱う際は安全リスクを考慮する必要があります。例えば調理器具や作業台の注意、保管方法や適切な温度での解凍、そして欠かせない手洗いに注意すべきです(14,26)。また、安全対策は餌の取り扱いだけに限定すべきではありません。人間が食べる調理済み、また生で食べる食品は大腸菌、サルモネラ菌、そしてカンピロバクター菌のような病源体細菌に汚染される可能性があります。現実、ペットフードのリコールに比べ人間の食品、特に食用鶏肉の不適切な取扱いのためリコールされるケースの方がはるかに多いです(13)。
健康や疾患における腸内マイクロバイオームの役割
動物を対象とした厳密な研究は不足していますが腸内マイクロバイオームが消化管に大きな影響を与えている結果は明らかに増えています。
実際マイクロバイオームの健康はアトピー性皮膚炎、アレルギー、腎機能、肥満、認知機能、行動、そして様々な免疫疾患の発症において重要な役割を果たすと考えられています(10,27)。
私たちの体の90%の細胞が微生物であり(犬も例外ではないと考える)(28)、腸内マイクロバイオームは健康への大きな役割を果たしていることには驚きません。
科学者たちは引き続き犬の体内に存在する多くの複雑な微生物の全容を明らかにする必要
がありますが、明らかな点は私達が与える食事は犬のマイクロバイオームの構成や多様性に直接影響し、さらに病気の予防、健康維持に最も重要な要素である可能性が明らかになりつつあります。
著者について
ナレル・クック、動物栄養士
ナレルは人とペットの臨床自然療法士、栄養士、ハーバリストです。
デュレル、シドニーでウエルネスクリニック「ナチュラルヘルス・アンド・ニュートリション」を運営しています。
自身、生涯犬の飼い主であり現在は3頭のフレンチブルドッグ、2頭のジャーマンシェパードそしてヒルマ猫を一匹飼っています。
ナレルはペットのみならずペットの飼い主の健康と幸福にも情熱を持って接しています。そして自身の大切なペットたちが長く健康な生涯を過ごせることへの強い望みが動物の健康と栄養の分野での研究へと繋がっています。

参考文献
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